『 ・・・ そして二人のクリスマス 』

 

 

 

***** はじめに *****

このお話は 【 Eve Green  】様宅の <島村さんち> の設定を拝借しています。

そして 拙作『 そんないつもの日々 』の続編であり( まだ二人っきりの新婚♪ )

93的『 幻影の聖夜』 のう〜んと先のお話でもあります。

 

 

 

 

「 メリ−・クリスマス、 フランソワ−ズ ・・・ 」

「 ・・・ メリ−・クリスマス  ジョ−。 」

 

頭上には次々と夜空を染める 炎の華を眺め、 足元遠くにはほう・・・っとパリの街の灯が拡がる。

ジョ−とフランソワ−ズは 黙って肩を並べていた。

聖夜を迎える街のざわめきが とおく潮騒にもにて響いてくる。

 

  天には御栄 ( みさかえ ) 地には平和を ・・・!

 

敬虔な人々は教会で祈り、 多くの善良な人々は街中で、家庭で微笑みを交わすその夜。

街はずれの廃墟で ジョ−とフランソワ−ズは言葉もなく聖夜の空を見上げていた。

 

焼け焦げのある赤い特殊な服と汚れてしまった <普通の服> と。

およそ聖夜には相応しくない恰好の青年と少女が寄り添っていた。

 

「 ・・・ 行こうか。 」

「 ええ ・・・ そうね。 これ以上遅くなると皆に心配をかけるわ。 」

「 ・・・ ほんの数時間だったけど。 < 旅 > は素敵だったかい。 

「 ・・・ ええ ・・・ ええ ・・・ ジョ− ・・・ 」

ぽとり。 ぽと ・・・ ぽとぽとぽと・・・

フランソワ−ズの足元に 涙が水玉模様を描き出す。

「 ぼくも見たよ。 飛行機・・・・ あれは複葉機っていうのかな・・・ 

 あの飛行機が ぼくをここに導いてくれたんだ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ ! 」

「 ・・・・・ 」

ジョ−は黙って彼女に手を差し伸べた。

 

・・・ あたたかい ・・・ 手 ・・・

 

フランソワ−ズは しっかりとその手を握り締めた。

「 さあ。 帰ろう。 ドルフィン号へ・・・ 」

「 ・・・ ええ ・・・   Au revoir, ・・・ mon Paris ・・・   あ。 」

ジョ−はするり、と彼女の身体を抱き寄せ そして桜色の唇を奪った。

 

   ぽ ----- ん ・・・!

 

二人の頭上で一際大きな花火が 夜空にその華麗な花びらを広げ・・・散っていった。

 

 

 

 

「 ただいま 〜〜 フランソワ − ずぅ〜  ・・・ ?! 」

島村さんちのご主人は 自宅のリビングの入り口で 固まってしまった。

弾む足取り、上機嫌でドアを開けたのだけれど。

「 ・・・・ あ ・・・・ ?? 」

 

 

まだ新婚の甘さにどっぷりと浸っている毎日、ジョ−は帰宅するのが嬉しくてならない。

街外れのギルモア邸、いや、 <島村さんち> に帰る足取りも楽しげで

思わずハナウタのひとつも零れてしまう、というものだ。

 

  ふんふんふん 〜 ♪

  ・・・ へへへ ・・・ でもなあ。 あの時、勇気を出してプロポ−ズして・・・

  ほっんとうによかった・・・!

 

今日も穏やかな海をながめつつ、海岸通りをずっと走り最後の坂道で思いっ切りアクセルを踏む。

やがて前方に ジョ−の文字通りの sweet home、 ちょっと古びた外観の洋館が見えてくる。

実際は最先端のテクでセキュリティ万全の いわば一種の要塞に近いのだが

見た目には街外れにある少々時代がかった邸にすぎない。

そこが ジョ−の家。 

ジョ−が初めて持った 自分自身だけの<家庭>がある場所なのだ。

 

  今日は♪ お土産があるんだ〜 

  絶対! きみに似合うと思うよ・・・ 

 

ジョ−は助手席に置いた、ふんわりした包みにそっと手を触れた。

これを買うのは 結構勇気が必要だったんだ・・・

でも。 ほら、あの店員さんだって褒めてくれたじゃないか。

 

 

「 まあ。 奥様にプレゼントですか! 羨ましいです〜〜〜 え? 新婚さん?

 きゃ♪ お熱いんですね〜〜 」

あの・・・ アレ、ください・・・

ジョ−がもじもじとディスプレイ・ウィンドウを指差すとピンク系のメイクをした若い店員が

クリスマスのイルミネ−ション顔負けのきんきら声で 対応してくれた。

「 あ・・・ そ ですか。 へへへ ・・・ ども。 」

ジョ−はどぎまぎ・・・ ふと気が付けば店内のお客は女性ばかりだった。

「 ・・・ あ。 あの。 もしかして ・・・ オトコは来ちゃいけないんですか? 

 そのゥ ・・・ こういうお店って。 」

「 いぃえぇ! とんでもない。 わたくし共としてはカップルでどんどんいらして頂きたいんですけど・・・

 どうも日本の男性方は照れ屋さんが多くて・・・ お客様はご立派ですわ〜〜 」

「 へ・・・へへへ ・・・ ども・・・! 」

ジョ−はますます赤くなって包みを引っつかむと早々にその店を飛び出した。

 

   ひえ・・・。 ディスプレイでアレを見て、 うん! 絶対これはフランソワ−ズにって

   そのまま 飛び込んでしまったけど・・・・ 

 

もう師走の声を聞いたというのに、ジョ−はびっしょり汗をかき ごそごそとハンカチを探っていた。

 

 

 

かなり焦ったけど。

フランソワ−ズの笑顔がみられるなら ぼくは何だってやるんだ! うん、そうさ。

ジョ−はひとりで盛り上がり、ひとりで熱血していた。

その笑顔が待つ <家> はもう目の前である。

センサ−が認知して門扉が開いた。

 

   島村

 

博士の名前と並んでいるまだ新しい表札に ちらり、と目を走らせジョ−はゆっくりと車を乗り入れた。

「 ・・・ ただいま ・・・? 」

ガレ−ジに車をいれ、玄関を開け  ・・・

 

  ・・・ あれ。 留守なのかな〜 いや、そんなこと聞いてないし。

  メ−ルももらってないぞ?

 

「 ただいま ・・・ フランソワ−ズ? 」

ジョ−は玄関でなぜか立ち止まったまま、声を少し張り上げた。

いつもなら。 いや、この家に 島村夫妻 として脚を踏み入れたその日から、

ジョ−が帰宅すると、すぐに玄関のドアが開き ・・・

 

  「 おかえりなさい、 ジョ−♪ 」

 

彼の愛妻が 満面の笑顔で迎えてくれるのだった。 

それなのに・・・・

その日、なんの知らせもなく島村さんちの奥さんは 玄関に顔をださなかったのだ。

本当は彼女の <お帰りなさい> を玄関で受け取りたかったのだけど、

家の中はし・・・んとしていてヒトのいる気配がつたわってこない。

ジョ−はしばらく玄関でうろうろしていたが、ついに諦めた。

彼の視力、聴力は勿論普通の人間よりも優れてはいるが、フランソワ−ズにはとても及ばない。

家の中を見通すことなどはできないのだ。

「 ・・・? 庭かなあ・・・ 」

仕方なしにジョ−はもぞもぞと靴を脱ぎ リビングに向かった。

 

この邸で一番日当たりがよく、そして季節によっては快適な海風が吹きぬける南側が

リビング・ル−ムになっている。

充分すぎるほど広いその空間は 彼らの <仲間たち> が世界中から集まってくるとき、

寛ぎの場所となり ― 時と場合によっては作戦会議に厳しい顔を並べたりする場所なのだ。

ジョ−はドアのノブを引いて ・・・ そして。

 

「 ・・・ ただい ・・・ ?? 」

 

目はしっかりと見開いたまま。 口はコトバ途中でこれもしっかり開けたまま。

ジョ−は入り口で稼働停止 ・・・ したごとく立ち尽くしていた。

島村ジョ−氏が 立ちんぼしているその広い部屋では。

 

「 ・・・ ら〜ら・・・ららら らら・・・ っと。 

 う〜〜ん ・・ こうやった方が色気があるかしら。  う・・・ん 挑発的 って ・・・ねえ? 」

壁際に置いた大きな等身大の鏡の前で 亜麻色の髪の乙女が

悩ましく腰をくねらせたり、腕を差し伸べ見えない相手の首に絡めたり・・・ しているのだ!

手にはしっかりとコンパクトなMDプレイヤ−をもち、ヘッドホンをしている。

「 誘うようにって・・・こういうカンジかなあ?? 」

ジョ−でさえ見たこともない妖艶な微笑みが彼女の顔いっぱいに浮かんでいる。

「 ら〜〜〜〜っと ここでドゥバンに脚あげて・・・ えっと ・・・ 」

白い脚がするり・・・と耳の横までもちあがった。

当然、スカ−トは捲くれ上がり ・・・・

 

  ・・・ わ ・・・! おい! ・・・ 丸見えだぞ・・・!! 

 

「 ・・ うぉっほ〜〜ん ・・・! 」

ジョ−はもう一度 かな〜〜り意図的に咳払いをし ずかずかとリビングに入ってきた。

「 ・・・ え ・・・ え〜〜っと。 あ・・・・ ただ・いま〜 帰ったよ? 」

「 1 ・ 2 ・ 3 ・・・・ っと それから・・・ あら?! 」 

やっと視界にジョ−が映り、 フランソワ−ズの碧い瞳がますます大きく見開かれた。

 

「 やだ! ごめんなさい〜〜 ちっとも気がつかなかったわ! 」

ヘッド・ホンをはずすと ( ついでに脚も下ろし ) 島村さんちの若奥さんはぱっと

彼女のご主人に駆け寄った。

「 お帰りなさい〜〜 ジョ−。 お仕事、ご苦労さま ・・・・ 」

「 あ ・・・ ああ。 ただいま・・・ 」

「 気が付かなくて・・・ ごめんなさいね。 」

「 ・・・ い ・・・ いや・・・ 」

細い腕が するするとジョ−の首に絡みつく。 

「 淋しかったわ・・・ 愛してる・・・わたしのジョ−・・・ 」

「 あ・・・ う ・・・ ぼ、ぼくも ・・・ そのゥ ・・・ アイシテル ・・・ 」

蚊が鳴くよりもぼそぼそと呟き ジョ−は新妻の細い身体をぐ・・・っと抱き寄せた。

 

  う・・・ん♪ 良い匂いだな。 ふふふ ・・・ あったかい♪

 

「 ただいま、フランソワ−ズ。 」

「 お帰りなさい、 ジョ−。 」

 

新婚半年の二人は熱く唇を重ね合わせた。

島村さんち での新しい習慣 ― お帰りなさいのキス ― はしっかりと定着したようだ。

 

 

「 寒かったでしょう? 今日の晩御飯は熱々のオイスタ−・チャウダ−よ。 」

「 わあ〜〜 いいね。 きみの料理はなんでも本当に美味しいね〜〜 」

「 あら。 前そんなコト、言ってもくれなかったのに? 」

「 そ、そうだっけ? ・・・ あ、うん、きっと料理の腕があがったんだよ、そうだよ。 」

「 ふふふ・・・ ありがとう♪ じつはね〜 ちょっとづつ張大人に教わっているのよ。 」

「 あ、そ、そうなんだ・・・ ( あは。 当てずっぽうに言ってみてよかった・・・ ) 

 あれ・・・ バレエの練習していたのかい? 」

ジョ−はやっと彼女の身体をはなし、リビングの隅に引き出された大きな鏡を見やった。

「 ええ、そうなの。 今度の公演、『 くるみ割り人形 』 でしょ。 

 お客さまにう〜〜んと楽しいクリスマスの夢を・・・って思って 研究していたの。 」

 

   ・・・ 研究? あの くねくね〜〜 が、か??

 

「 ふうん・・・? それで何の役なんだい。 お姫さま? 」

「 や〜だ、主役なんかとてもとても・・・ でもね、今回は若手にいろいろ役が回ってきて・・・

 わたしは アラビアの踊り なの。 お菓子の国でコ−ヒ−とか紅茶の精なのよ。 」

「 アラビア・・・・??  もしかして・・・ あの ・・・ ハ−レム美女・・・? 」

「 ハ−レムって、ジョ−?? そういうのがお好みなの。 」

「 好みって ・・・ い、いいいいや。 そのう・・・なんだな、一般的な連想さ。 」

「 そうなの? でも・・・それってアラビアのヒト達に失礼じゃない? 」

「 あ、あああ そ、そうだね。 ・・・ あ! ほら、アレだよ、あれ〜 『 アラビアン・ナイト 』

 あんなの連想したんだ。 」

「 ああ ・・・ そうね。 うん、あんなカンジよ。 透け透けの生地できらきらした飾りが沢山ついて・・・

 そんなお衣裳で踊るのよ。 」

「 ・・・ スケスケ・・・・!? 」

「 そうなの。 それでリハ−サルでね、 もっと色っぽくって言われちゃって・・・ 研究してたの。 」

「 ・・・ い、色っぽく??? いったいどういうバレエなのさ?? 」

「 だから〜 『 くるみ割り人形 』 だってば。 あ・・・ ジョ−、これ、落ちたわよ? 」

フランソワ−ズは例のジョ−の <あとは勇気だけ>で買った包みを彼の足元から拾い上げた。

「 あ! いけね。 ごめん・・・ これ。 きみに・・・ 」

「 まあ。 あ、早めのクリスマス・プレゼント? 

「 い、いや・・・ そうじゃなくて・・・・ そのゥ・・・ 店の前を通りかかって・・・

 ショ−ウィンドウにあってさ。 あ、これ、きみにぴったり!って思ったんだ。 」

「 わあ・・・嬉しいわ。 ありがとう、ジョ−。 開けてもいい? 」

「 ・・・う、うん ・・・ もちろん ・・・ 」

「 きゃ〜〜〜 何かしら。 ふわふわで素敵なラッピングねえ・・・   あら? 

がさがさ。 カサリ ・・・

大層なラッピングの中から フランソワ−ズの白い指が取り出したのは。

 

「 ・・・ ランジェリー ・・・ なのかしら。 」

「 い・・・いや。 そのゥ ・・・ ね、ねぐりじぇ、っていうのかな。 あ、ね、寝間着だよ。 」

「 ・・・ 寝間着?! 

 ジョ−。 あなた、コレを ・・・ 夜、わたしに着せたいわけ? 」

「 あ・・・ ゥ・・・・ あの。 よろしければ・・・ 

 きっとよく似合うと思うよ。 きみはスタイルいいし・・・・身体も綺麗だし・・・ 」

フランソワ−ズは全くの無表情でソレを摘みあげ じ・・・っと見つめている。

ひらひらの透け透け。 リボンやらレェスがごてごて付き・・・ でも丈はすごく短い。

はっきりいってこれじゃ丸見え・・・ な。 いわゆる ベビ−・ド−ルというアレである。

 

「 島村さん 」

「 ・・・・ はい? 」

「 わたし。 もう結婚した女性ですから。 こういう類のモノはご遠慮いたしますわ。

 どうぞ・・・お若い方に差し上げてください。 」

「 けっこん・・・って そのう ・・・ その相手は・・・ぼく なんですが。 」

「 はい、よく存じていますわ。 わたしは古風な女性ですから、夫の前で

 みだらな恰好はできませんの。 母からそう躾られました。 」

 

   ・・・み、みだらって・・・ ぼくの前ならいいじゃないか!

   って・・・! さっきのあのポ−ズはなんなだよ〜〜〜

 

ジョ−は百万語くらい意見表明がしたかったが なにせ口の重い彼のこと、

もごもご・ぶつぶつ・もじもじしているだけだった。

そんな彼の前で フランソワ−ズは そのひらひら・すけすけ を

滅茶苦茶丁寧に ・・・ きっちりと包み直した。

「 はい。 これは他の方にどうぞ。 」

「 ・・・ あ ・・・ は、はい ・・・ 」

こんなの、プレゼントする相手がいるほうが よっぽどモンダイじゃないか〜〜 ・・・ と

ジョ−は心中ひそかに喚いてみたが、相変わらず一言も口にはだせなかった。

 

「 それじゃ。 もうすぐ晩御飯です。 ちゃんと手を洗ってウガイをしてきてくださいね。

 旦那様。 」

「 ・・・・ はい。 」

ジョ−はすごすごとバス・ル−ムにむかった。

 

   ・・・せっかく勇気を出して買ってきたのに・・・

   きみの今のパジャマ ・・・ あれって中学生みたいじゃないか・・・

   ・・・ どうせすぐに脱がしちゃうから・・・いいけど ・・・さ。

 

結婚以来 彼の奥さんが毎晩愛用してるパジャマを思い浮かべ溜息をついた。

彼女がソレを着ている時間は ・・・ 特にベッドの中ではごく短いのだが・・・

教会で永遠の愛を誓ったその夜から ずっと・・・ ソレなのだ。

ジョ−の最愛の妻は 毎晩ピンク色の地にバッテンの口をした白兎が行進しているパジャマを

きっちりと着込んでいる。

襟元までちゃんと留っているボタンを外すとき、ジョ−はどうしても・・・

なんだかひどく疚しい気分になるのである。 

腕の中にいるのは 婚姻届も提出し教会で誓いも立てた彼の正妻であり 従って正々堂々と?

そのボタンを外し白い胸を愛でる 権利 を所有しているはず、なのだけれど。

無口な白兎達にじっと見つめられると ・・・ 不純異性交遊 ・・・ そんな古めかしいコトバが

浮かんでしまうのだ。

 

   え〜〜い ・・・ ! このオンナはぼくの、ぼくだけの・・・!

 

ジョ−は毎晩目をつぶって 彼の新妻のパジャマを脱がせていたのだった。

 

 

 

 

「 お早う〜〜 」

「 お早う、みちよ。 」

フランソワ−ズが着替え終わり、スタジオに入ろうとしたとき、みちよがぱたぱたと駆けてきた。

「 今日は早いね〜〜 フランソワ−ズ。 」

「 ふふふ ・・・ だって二日続けてお寝坊はイヤだもの。 しっかり!目覚ましをかけたの。

 それも二つね。 部屋の隅っこに置いて・・・ 」

「 ははは♪ 島村さん、飛び起きちゃったんとちがう? 」

「 え・・・ いいのよ。 毎朝、起こすの大変なんだもの。 」

「 へ〜〜え? 朝かららぶらぶなんでしょ。 ジョ−?起きて? フランソワ−ズ・・・もうちょっと・・・

 な〜〜んていちゃくちゃやってるんだ〜〜 コイツめ〜〜 」

「 みちよ〜〜 」

「 あはは・・・ 真っ赤になっちゃって〜 も〜〜可愛いなあ、フランソワ−ズ♪ 

 あ・・・! いけない、急がなくちゃ・・・ 」

今朝はみちよが大急ぎで着替え始めた。

「 あのね、 これ。 今日ってみちよのお誕生日でしょう? 」

「 ・・・え ・・? わあ〜〜 覚えていてくれたの〜〜 嬉しい〜〜♪ 」

みちよは半分着替え中のまま、フランソワ−ズから渡された包みを抱いて

ぴょんぴょん撥ねている。

「 中味ね、サブレなの。 わたしが焼いたから・・・ あんまり上等じゃないけど。 」

「 うわ♪ フランソワ−ズのお手製〜〜 きゃ〜〜 素敵♪

 島村さん、いいなあ・・・ こんな奥さん貰ってさ〜〜 このォ! 幸せモノめェ〜 」

「 きゃ・・・♪ 」

なんだか滅茶苦茶な言い草のみちよとのオシャベリはフランソワ−ズにとって

楽しい一時なのだ。

 

「 ねえ・・・ 葦笛、どう? うまく行ってる? 」

「 え? ああ、うん。 あんなモンじゃないかな〜〜 

 ウチの葦笛はパ・ド・ドゥじゃないからね。 ふふふ、ダイエットしなくてもいいかも♪ 」

「 あら、でも3人で並んでグラン・フェッテするんでしょ。 大変よねえ・・・ 」

「 うん、まあね。 ほとんどまわってばっかだし・・・ 」

「 みちよはピルエット得意だし・・・ いいなあ。 」

「 なに言ってるの、パ・ド・ドゥもらったヒトが。 」

「 ・・・ ウン ・・・ でも ・・・ねえ。 」

二人はスタジオで ストレッチをしつつぼそぼそとお喋りをしている。

「 みちよ? あの、ね。 ・・・ そのう・・・ 色っぽくってどうしたらいいの? 」

「 ・・・ は??? 」

みちよはアタマの上に持ち上げていた脚もそのままに 思わずこの思い詰めた

若奥サンの顔をみつめてしまった。

 

 

 

 ・・・ ふう ・・・・ !

 

稽古場を出たときには 午後の陽射しも斜めになり始めていた。

フランソワ−ズは深呼吸のつもりで すう〜〜っと息を吸い込んだが・・

なんだか最後は溜息に変ってしまったようだ。

 

アラビアの踊り。

『 くるみ割り人形 』 の <お菓子の国> で踊られるちょっと変った踊りだ。

所謂クラシック・バレエのテクニックを駆使・・・といのとは少し違っていて

ゆっくりとしたエキゾチックなメロディで 柔軟な身体の線を存分に表現する。

そして 

やはり・・・ 衣裳もだけど、< 色っぽい > 雰囲気が必要になってくる。

 

「 ねえ、色っぽく ってどうしたらいいの?? 」

 

フランソワ−ズの真剣なこの問いに 誰もストレ−トには答えてくれなかった。

 

  ・・・ そんなの、島村サンに聞いてみなよ。 島村の奥さん。

 

  オレに聞くなよ〜〜 ビデオでも見て研究すれば。

 

  そうねえ・・・ 少なくともくねくねすればいいってもんじゃないと思うけど?

 

  音をよ〜く聴いてごらんなさい。 どんな光景がみえますか。

 

皆それなりにアドヴァイスはくれたけれど。

フランソワ−ズはますますアタマを抱えてしまった。

それで 今日も残ってずっと自習をしていたのだけれど・・・・

 

  ・・・ ふううう ・・・・ 

 

もう一回 大きく溜息を吐いて、肩のバッグを掛けなおし彼女は歩き始めた。

カサ・・・ カサカサ ・・・・

足元を枯れた落ち葉が木枯らしと一緒に吹き抜けてゆく。

まだ少し暖かいけれど、これで日が落ちたら急に冷えてくるのだろう。

 

  ・・・ 早く帰ろう。 それで・・・あったかい晩御飯、ゆっくり作ろう ・・・

 

ショ−ウィンドウの多いこの通りで、なんだか元気のない若妻がとぼとぼ歩いていた。

 

  ヤダ・・・ ますます < 色っぽい > には遠くなるわ。

  ・・・あ ・・・? あら・・・ ヤダなあ・・・

 

たまたま歩いていたそのすぐ脇には。 しゃれたカンジの美容室のぴかぴかなガラス窓があった。

疲れた顔をした ぼさぼさな髪の女の子が映っている。

 

  ・・・ そうだわ!

 

ちらっと時計を見てから、フランソワ−ズはそのぴかぴか・ドアを押した。

 

 

「 本当によろしいんですか? 」

「 ええ。 お願いします。 」

「 ・・・ はあ。 でも・・・ 勿体無いですねえ〜〜 」

「 いいです。 ばっちりお願いしますね。 」

「 はい。 ・・・ でもなあ・・・ 僕としてはこのまま・・・ 」

「 お願い。 」

「 ・・・ はい。 」

流行の服を巧妙に着崩し、ばっちり決めたその青年はふか〜〜い溜息をつき

しばしじ・・・っとフランソワ−ズを見つめていたが 意を決してコ−ムを取り上げた。

「 さっきのでお願いしますね。 」

「 ・・・ はい。 ・・・あああ・・・ 勿体無いなあ・・・・ 」

「 お ・ ね ・ が ・ い 。 」

ふうう・・・・ もう彼は返事をせず、黙々と仕事にとりかかった。

 

   いいのよ。 これで少しは・・・

   カタチから入るってテもあるものね。 ・・・ ふふふ・・・ 楽しみだわ〜〜

 

フランソワ−ズは一人でにこにこしていた。

 

 

 

・・・ あ〜〜 ・・・・ 今日も結構疲れたな〜〜〜

ジョ−は車から降りると、大きく伸びをした。

ギルモア邸のガレ−ジはかなり広々としていて、ぱっと見には修理の町工場にも思えるほどだ。

車は二台しか入っていないが、 所狭しとジョ−がいろいろな部品を拡げていた。

 

ガレ−ジはジョ−の遊び場ねえ・・・

 

フランソワ−ズはもう諦めて ここには一切口出しをしない。

雨の休日など ジョ−はガレ−ジに篭り思う存分彼の <おもちゃ> をいじくっている。

 

さ〜〜て♪ 今晩はなにかなぁ〜 ああ・・・ 腹減った・・・

煩い腹の虫に耳を傾け、ジョ−は足取りも軽く玄関にまわった。

 

「 ただいま〜〜 ・・・?! 」

「 おかえりなさい! 」

今日はジョ−がドア・ノブに手を伸ばすと同時に 玄関が開いた。

 

「 ただいま・・・ フランソ・・・ ??? 」

 

またまた今日も 島村サンは玄関口で棒立ちになっていた。

そして。

「 ・・・ す、すみません! おウチ、間違えました・・・!! 」

慌てて玄関を飛び出し、ドアを後ろ手でしめて。 

 

   ・・・ あれ・・・?

 

目の前にはよ〜〜く見慣れた風景が広がっている。

それに・・・ ついさっき、あのガレ−ジに車を入れてきたじゃないか・・・!

あんな場所はこの世に一つしかないし。 だいたい、ウチは岬の一軒家、間違えるわけはない。

 

「 ・・・ あのゥ・・・? 」

ジョ−はおそるおそるたった今、勢い良く閉めたドアをちょびっとだけ開けた。

「 ・・・ココは ・・・ I.ギルモア博士のお邸ですよ・・・ね? 

「 はい。 ウチは 島村 ですよ。 」

「 ・・・ふ、フランソワ−ズ 〜〜〜 !!! そ、そそそそその髪〜〜〜 」

玄関には いつもの通りにジョ−の奥さんがちゃ〜〜んと迎えに出ていた。

彼女の夫の帰りを待ちわびていたのだ ― 満面の笑顔で。

「 お帰りなさい、ジョ−。 ・・・ どう? 似合うでしょう? 

フランソワ−ズは極上の笑みを浮かべ、艶やかな髪をさ・・・っと払った。

ジョ−が愛して止まないあの亜麻色の髪は  彼自身よりもちょっと濃い目の茶色に染まっていた。

 

 

 

「 ・・・ やっぱりさ。 違うヒトみたいだよ。 」

「 そう? でも ・・・ たまにはいいでしょう? 刺激があって。 」

「 刺激って ・・・ そ、そんな ・・・ 」

フランソワ−ズが運んできたお茶のトレイを受け取って、ジョ−はひとりで赤面している。

晩御飯も終わり、 うん、そんなアタマもいいなあ・・・とひと言残し、博士はイワンとともに

さっさと研究室に閉じこもってしまった。

二人はリビングのソファで のんびり食後のコ−ヒ−を楽しんでいるのだが。

 

「 だって・・・ いっつも同じじゃつまらないでしょう? 」

「 ・・・ そ、そんなコトないよ。 ぼく、きみの髪・・・大好きさ。 」

「 ま・・・ ありがとう♪ 」

フランソワ−ズはすとん、とジョ−の隣に座りさっとキスをした。

ジョ−の目の前に見慣れぬ焦げ茶の巻き毛が揺れている。

・・・ どきん ・・・ !

ジョ−の心臓が びくり、と震えた。

 

  ・・・ しらない女性 ( ひと ) にキスされた ・・・ 気分 ・・・ 

 

「 わ・・・!  え・・・ あ ・・・・ ははは ・・・ 」

「 実はね〜〜 へへへ ・・・本当は舞台のため、になの。 ほら、アラビアの踊り、でしょう?

 髪もコ−ヒ−色がいいかな〜〜なんて思って。 」

「 ・・・ あ ・・・ ああ ・・・ そ、そうなんだ・・・・ 」

「 ええ。 でも、ジョ−があんなにびっくりしてくれるとは思わなかったわ♪ 」

「 え ・・・ ああ、まあ、ね。 」

「 も〜うね、頑張っちゃうわ、わたし。 お衣裳もね〜〜 ちょっと工夫しようと思って

 早めに借りてきたのよ。 きらきらのスパンコ−ルかビ−ズをたくさんつけようかな。 」

「 へえ? アラビアン・ナイト風なら ・・・ う〜〜んと派手な方が < らしい >んじゃないか。 」

「 そうよね。 あ、ちょっと見てくれる? 」

フランソワ−ズはコ−ヒ−・カップを置くとソファの端に置いてあった紙袋を開けた。

「 ・・・ ほら。 これなの。 」

「 へえ・・・ 綺麗な色だねえ。  ・・・・ え ・・・・? 」

 

二人の前にきらきらした薄物の生地が広げられた。

光る素材の濃いピンク色に 金銀の飾りものが散りばめられている。

いかにもおとぎの国の、夢の衣裳に相応しい華麗さである。 ・・・・である、のだが。

 

「 ・・・ これ、さ。 そのう ・・・ 上着、かい。 ボトムは同色のスパッツかなんか? 」

「 え? ううん。 これが上でこっちが下。 ほら・・・ 」

「 ( う ・・・?? こ、こ、コレって ・・・ こんなスケスケのもろ出し・・・ ) 

 あ・・・ あのう、さ。 ぼく、まちがってる、かもしれないけど・・・

 アラビアの踊りってこの前の晩、きみが鏡の前で・・・ やってた・・・アレ? 」

「 ええ、そうよ。 アダ−ジオっぽくてね。 パ・ド・ドゥなんだけど

 男性にリフトしてもらいっ放しなかんじ。 結構大変なのよ。 」

「 ( リフト・・・って。 つまりは <抱かれっ放し> ってコトじゃないか!

 そ、それも・・・ コノ、もろ出しを着て!! )  ・・・ きみさ、こういうの、平気? 」

「 え・・・ なにが。 どういう意味? 」

ジョ−は急にムズカシ顔で 彼の細君を見つめた。

「 大勢の前でさ。 こういう・・・露出度の高いモノ着て踊るの、何ともないのかな、ってこと。

 男性とぴったりくっついて、さ。 」

「 ジョ−。 」

今度はフランソワ−ズの顔が す・・・っと強張った。

「 ジョ−。 どういうこと? 露出度って・・・ あなた、そんな眼でいつもわたしのステ−ジを

 ・・・ ううん、バレエを見ているの。 」

「 ・・・ え ・・・ あ、そ、そういう意味じゃ・・・ 」

あっという間に形勢は逆転してしまった。

ジョ−はどぎまぎと顔を赤らめ いつもと同じく口の中でもごもごとなにやら呟いている。

「 それって・・・ バレエという芸術に対する侮辱じゃない? 

 露出度って、身体の線をはっきり見せる方が美しいからなのよ。

 鍛錬さえた身体って本当に美しいの。 それに技術を積み重ねているの。

 そんな ・・・ 低俗は興味で見て頂きたくないわ。 」

「 ご ・・・ ごめん。 そ、そんなつもりじゃ・・・ ただ ・・・ コレが・・・ その・・・ 」

「 それにね。 これはわたしのお仕事なの。 」

「 ・・・うん ・・・ ごめん。 言い過ぎた・・・

 ただ、ぼくはさ。 そのう ・・・ きみが大事で大好きで大切で・・・それで・・・ 」

「 いいのよ、ジョ−。 わたしもちょっと・・・ムキになってしまったわ。

 ごめんなさい。  ・・・あなたにそんなに想われて嬉しいわ・・・ 」

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」

ぴったりと身体を寄せてきた彼の新妻を抱きしめ、ジョ−はサクランボみたいな唇を独占した。

ちら・・・っと眼の端に、あの緋桃色が映ったがあわてて眼を逸らせた。

 

  ・・・ あれは彼女の 仕事着 なんだ、そうだよ。

  あ・・・ それじゃ。 あのベビ−・ド−ルだって着てくれる・・・かも♪

  ふふふ ・・・・ 今晩こそ!

 

キスをじっくり味わいつつも ジョ−は期待でわくわく・どきどきになっていた。

 

 

「 え。 これを? 」

「 そ、そう。 これってあのゥ・・・ ナイティだし、ぼくしか見るヒトいないからさ。

 きっと絶対に似合うと思うんだ。 ほら・・・さっきの衣裳と似た色合いだし。 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワ−ズは黙ってジョ−が差し出した薄物を眺めている。

晩御飯は超〜〜美味しかったし ちょっと険悪ム−ドになったけど、すぐ仲直りしたし。

お茶も ・・・ ふふふ 〜〜〜 美味しいキスだったよな。

ジョ−は満ち足りて大いに <元気> で期待いっぱい、ベッド・ル−ムに入ったのだが。

 

たった今までほんのりほほを染めていた彼の新妻は またまた無表情になってしまった。

彼女がつい・・・と指先で摘み上げたのは・・・

そう、先日彼が勇気のありったけを振り絞って買ってきたあのひらひらのベビ−ド−ルである。

「 これ。 上着でしょう。 下は。 」

「 下・・・って。 あの ・・・ コレだけですが。 」

なんだかさっき同じ会話を交わしたかも・・・とジョ−はちらり、と思った。

「 ジョ−さん。 」

「 は、はい・・・ 」

フランソワ−ズはきっちりとベッドの上に正座してジョ−と向き合った。

湯上りの彼女は 良い香りを漂わせセピア色の髪をゆらし・・・例の無口な白兎模様のパジャマを

きっちりと着込んでいる。

「 先日も申し上げましたけど。 わたくしはもう既婚の女性ですから。 

 こんな淫らなモノは、着れません。 」

「 ・・・ み、淫らって ・・・ そのゥ これは夫婦の ・・・ 」

さっきの衣裳と どこが違うんだよ〜〜〜〜 ・・・とジョ−は密かに心の中で叫んでいたが

さすがに口には出せなかった。

・・・ というより、言った後が恐ろしかったのかもしれない。

「 ええ。 神聖な夫婦の営みに邪な気持ちがあってはならないと思いますわ、わたし。 」

「 し、神聖な ・・・?  」

「 そうです。 わたし達は神様の御前で永遠の愛を誓った夫婦ですから。 」

・・・ だから、さ。 いいじゃないか〜〜 ねえ??

とは、ジョ−はまだ言い出せない。

いかな結婚しようと、夫になろうと、ジョ−にとってフランソワ−ズは まだちょびっと

おっかない・素敵で綺麗な年上のお姉さん、だったのだ。

「 わたしの全ては 夫であるジョ−、あなたのものです。

 こんな ・・・ モノを着なくても充分だと思いますが。 違いますか? 」

「 ・・・ 違いません。 」

ジョ−はアタマを深く垂れ、こっそりと溜息をついた。

「 ジョ− ・・・ 。 わたし、そんなジョ−が大好きよ。 ねえ・・・? 」

「 ・・・う、うん ・・・ フランソワ−ズ ・・・ ぼくも。 」

ふと気が付けば 彼のまん前で濃いセピア色の髪の女性が熱い視線で彼を見つめている。

・・・ もうこうなったら・・・! オトコの実力を見せてやる・・・!

「 フランソワ−ズ。 おいで・・・ 」

ジョ−は妙に気負いこんで 彼の新妻を抱き寄せ・・・ しっかりと組み敷いた。

無口な白兎のパジャマはあっと言う間にベッドの下に落ち・・・

やがて 真冬のベッド・ル−ムはヒ−タ−不要の状態になっていった。

 

 

 

 

「 お疲れさま〜〜 」

「 お疲れ! あ〜あ・・・やっとお〜わった・・・ あら? もしかして・・・ ? 」

舞台が華やかなフィナ−レを迎えたのはもう大分前のこと。

賑やかなクリスマス公演に客席もおおいに盛り上がり、終演後もロビ−には楽しい雰囲気で

溢れていた。

そのロビ−も今は閑散とし、 時折楽屋口から抜けてくるダンサ−達が通りかかるだけだ。

見晴らしのよい窓際に 青年が一人、ぽつん・・・と外を眺めていた。

 

「 ・・・ あ ・・・・? ああ・・・えっと ・・・ みちよさん、でしたよね。 」

「 あら、やっぱり島村さんだわ〜。 こんばんわ! 」

「 今晩は。 ・・・あ、 オツカレサマっていうのでしたっけ。 」

「 ふふふ♪ 如何でした? フランソワ−ズのアラビアの踊り、素敵だったでしょ。 」

「 いや〜〜 あ・・・ もう、ぼく、ドキドキしっぱなしで・・・ 」

「 彼女ね〜 結婚してすご〜〜く色っぽくなりましたよね。 

 今日なんか皆で感心してたんですよ〜 ふふふ ・・・ タツなんて、あ、今回のパ−トナ−ですけど、

 うへ〜〜 まいったぁ〜〜 なんて・・・ 」

「 ・・・ え ・・・! 」

「 あはは・・・ お幸せで羨ましいです〜〜 」

かなり焦っているジョ−を尻目に もうすぐ来ますよ〜 と暢気に言い置いて

みちよはさっさと行ってしまった。

 

  ・・・ そうかぁ〜〜 って感心してる場合じゃない・・・けど、でも・・・

 

ジョ−は動物園のくまさんになり、ひたすらロビ−をうろうろしていた。

 

 

  ボ −−−−−−−   ボ − −−−−−−−−

 

あれ・・・?

ずん・・・と響く、すこしくぐもった音がして ジョ−は広いガラス窓の外に視線を転じた。

あ。 ここって ・・・ さっきのは船の汽笛だったのか。

今晩の舞台は ジョ−達が住む地の県民ホ−ルで広い大ロビ−の窓からは

眼下に開ける港が見晴らせる。

そこは旧いエキゾチックな街で 港にはイルミネ−ションいっぱいの豪華客船が望めた。

 

  ・・・ あれ。 こんな風景・・・ どこかで見たよなあ・・・?

 

「 ・・・ ジョ−? お待ちどおさま。 」

「 フランソワ−ズ・・・! 」

振り向いた先には ジョ−の大切な奥さんの笑顔があった。

「 お疲れ様。 ・・・ すごく ・・・・ そのゥ ・・・ ドキドキしたよ。 」

「 あらまあ。  そんなにわたし、危なっかしかった? 」

「 あ! そ、そんな意味じゃなくて。 う〜〜〜 もうさ、 きみの色・・・いや、魅力にくらくら〜 」

「 あら〜〜 ありがとう♪ ふふふ・・・頑張った甲斐があったわ。

 ジョ−がくらくら〜〜 なら ほとんどのお客サンは どきん♪ としたかな。 」

「 え、それってどういう意味さ。 」

「 ふふふ・・・ 今晩の舞台は大成功〜ってこと。 あら・・・ここ・・・ 」

「 うん。 綺麗だろ。 」

「 ・・・ わあ ・・・ 」

フランソワ−ズも 窓に張り付いて港の夜景に見とれている。

「 なあ。 疲れてなかったら・・・ ちょっとこの辺り、歩いてみようか。 」

「 素敵♪ 行きましょ。 」

ジョ−はフランソワ−ズの荷物をひょい、と持ち上げ、空いた手で彼女を抱き寄せた。

するり、と細い腕がジョ−の腕に絡みつく。

ふわり・・・と 脂粉の香りがジョ−の鼻腔をくすぐった。

「 ・・・ いこうか。 」

「 ええ・・・ 」

 

 

 

クリスマスを翌日に控え、港街は遅くまで賑わっていた。

所謂繁華街からは離れているけれど、港を見通せる通りには人通りが絶えない。

 

「 ・・・ きれいね。 」

「 うん ・・・ なんだか日本じゃないみたいだ。 」

「 そう ・・・ 港街ってやっぱり遠くの国にも繋がっているからかしら・・ 」

「 きみの故郷にも。 きっと。 」

「 そうね。 あ・・・ 花火・・・? 」

「 ・・・ ああ ・・・ 本当だ。 この頃では日本でもクリスマスに花火を打ち上げるんだね。 」

「 本当・・・ 夏の花火もすごく素敵だったけど。

 わたしにはやっぱり ・・・ クリスマスの花火が懐かしいわ。 ああ・・・ 綺麗ねえ ・・・ 」

二人は寄り添ってゆっくりと港沿いの道を歩いてゆく。

やがて並木道が途切れると 高台に出た。

さすがに ・・・ この時間に人影はまばらだった。 

 

  ・・・ ぽ − − − − ん ・・・・・ 

 

またひとつ、花火が港街の夜空に爆ぜ、色とりどりの星を散らしてゆく。

 

「 ・・・ なあ。 こんなクリスマス・・・ 前にもあったよな。 」

「 ええ ・・・ やっぱり隣にジョ−がいて・・・ 」

「 こうやって 花火、見てたね、二人で。 

「 ふふふ・・・ 覚えてる? あの日 ・・・ 初めてキスしてくれたのよ、あなた。 」

「 ・・・ え ・・・ あ、そ、そうだっけ・・・? 」

「 そうよぉ。 わたし・・・ もうびっくりして・・・ 」

「 あ・・・ イヤだった?? 

「 ・・・ ううん ・・・・ 本当言うとね。 あの時から ・・・ 」

フランソワ−ズはことん・・・・とジョ−の胸にアタマを押し付けた。

「 あの時から ジョ−のこと・・・ 好きになった・・・ のかもしれないわ。 」

「 うん ・・・ じつは ぼくも・・・・ 」

「 あなたのキスで わたし・・・ 幻影から目覚めたのね・・・きっと。 」

「 今晩は 幻影のイブ じゃないよ。 このキスも ・・・ ホンモノさ。 」

「 ・・・ あ ・・・・ ああ ・・・・ 」

ジョ−はフランソワ−ズをしっかりと抱き寄せると 熱くその唇を覆った。

 

   パパ − − − − − ン ・・・・ 

 

遠くでまた花火があがった。

 

  もしかして。 ・・・ お兄さん ・・・ 今も、見守っていてくれるのかしら・・・

 

熱いジョ−の舌に絡みつかれつつ・・・ フランソワ−ズはちらっと夜空を見上げていた。

 

 

 

 

「 ・・・あ〜あ ・・・さっぱりしたわ ・・・ 」

「 お疲れさま〜〜  わ♪ ふふふ・・・ やっぱりぼくはこの髪がいいなあ・・・ 」

フランソワ−ズはまだ湿り気のある髪をぬぐいつつ、バスル−ムから戻ってきた。

ジョ−は早速手をのばし、お気に入りの亜麻色の髪を撫でている。

「 うふふ・・・ 実はね、わたしもなの。 ・・・あ ・・・ あらら・・・ 」

ジョ−は待ちきれなくて、そのままフランソワ−ズを抱き上げベッドに運んだ。

「 ・・・ もう・・・ 今夜はずっと・・・ きみが欲しくて・・・ 」

「 まあ・・・ 」

久し振りの亜麻色の髪の感触を楽しみつつ、ジョ−の指は巧みにパジャマのボタンを外してゆく。

例の無口な白兎はあっさりと退場・・・したのだが。

「 ・・・ わ ♪ アレ・・・着てくれたんだ・・! 」

パジャマの下に ・・・ スケスケ・フリフリのベビ−・ド−ルを発見しジョ−は目を輝かせたが・・・

フランソワ−ズは両腕でぱっと胸を隠してしまった。

「 や・・・だ・・・ そんなに見ないで・・・ 」

「 どうしてぼくに隠すの。 綺麗だよ〜〜 よく似合うよ〜〜♪ 」

「 あの ・・・ わたし、ね。 思い出したの。 ママンに言われたこと・・・ 」

「 あ・・・ こういう・・・・ そのう〜はしたない格好はダメって躾けられたんだろ。 」

「 ええ。 でもね。 一番大切なコト、忘れていたの。

 あなたの夫を一番大切しなさい、って。 だから・・・・ あの・・・ 」

ジョ−はフランソワ−ズのほっそりした腕をそっと掴んで胸の前から退けた。

 

   ・・・ う ・・・わ ・・・ ♪

 

ごくり・・・とジョ−の咽喉が鳴った。

毎晩見慣れているはずなのに。 今晩、彼女の肢体は何時にも増して輝いて ・・・ みえた。

「 うん、そうだよ〜〜 ママンの言いつけはちゃんと守らないと・・・ね。 」

「 ・・・え ・・・? 」

ふわり・・・・

ジョ−はレエスの下から覗いている無口な兎模様のズボンに手をかけると・・・

一気に引き下ろした。

 

 

      メリ−・クリスマス ・・・ フランソワ−ズ♪

 

         ・・ メリ−・クリスマス ジョ− ・・・

 

 

 

************    Fin.    ***********

 

Last updated :  12,11,2007.                          index

 

 

*****    ひと言   *****

はい、まずは フランちゃんの艶姿をどうぞ♪♪ ⇒  アラビアの踊り

ふふふ・・・・♪♪ ジョ−君と一緒にくらくら〜〜っときたでしょう??

すべてはこの めぼうき様 の華麗なるイラストが源でありました☆☆☆

そして あの 『  幻影の聖夜 』  を93的結末にしたかったのです〜〜〜

新婚時代のクリスマス♪♪ 甘々〜〜〜な二人に中てられてくださいませ(#^.^#)

あ・・・ フランちゃんの舞台は はい、 K県民ホ−ルです♪

ココのロビ−は港・ヨコハマがばっちり見えて 超お勧めですよ〜〜♪♪